8月16日(月) 

7:00過ぎ目覚めて窓の外を見ると綾部の低い山々に、霧が漂っていた。空も白い。
昨日と同じく曇りの一日かと思ったが、小一時間うとうとした後にはすっかり晴れていた。

9:00、生野神社からいちばん近い宿ということで綾部に泊まったので、そこがどのような土地なのかも知らないうちに、出発した。


昨日の道を戻り、10:50嵐山に着く。風景のアウトラインは宇治に似ている。が、ちがいはゴミゴミセカセカしていること。
これは観光客の多寡ではない。「都」というのはそういうものだと思う。
人が多くいればゴミゴミした空気が生じるし、少しでも他人より早くという雰囲気が生じる。
象徴的に言えば、畑の作物を失敬すればいいということと、行列の後ろに並ばなければ欲しい物も手に入らないということのちがいである。

渡月橋を渡り右岸に行ったり、左岸の河畔の道を川上に歩いたりして、嵐山といえば豆腐だよなあ、とか思っていたが、目的は小倉山。
小倉山を探して桂川左岸の街路を東に行くと、交番前の案内板のそばにプリントされた地図が置いてある。
それをいただいて、嵯峨野を歩く。

11:00も過ぎたし、目についた食堂に入りにしんそば(\850)をたのむ。客は私一人。渡月橋傍の店には客が入っていたのだが。
煙草を吸おうかと、灰皿を探すが、卓にも調理場前のカウンターにもない。灰皿をたのもうかと思案しているうちに蕎麦がきた。
蕎麦を食べていると、壁に「店内を禁煙とさせていただきます」との貼り紙があるのに気づく。

味は普通。昨日食べた蕎麦の汁があまりに美味かったためか、とても普通。470円高いのに。
身欠き鰊代+場所代が470円。よくある話です。

身欠き鰊を食べているうちに、「身欠き鰊のよう」という成句を思いつく。心は、表はきれいだが裏は黒い・・・、やはりだめだね・・・・・・。

まあ、蕎麦を食べて再び歩き始めた。

天竜寺前を過ぎて左折。うにゃうにゃ歩く。ウォーキング大会の参加者がうにゃうにゃいる。子供連れから初老のグループまで。横に広がったり、なんだか邪魔。

人力車を引く若者が、息を切らせながら観光案内をしてすれ違う。

嵯峨野の竹林はさすがに美しい。竹藪に入ると空気がおどろくほど涼しい。


渡月橋
嵐山と言えばこれでしょう。




美しい竹藪がずっと続く

トロッコ嵐山駅で小休憩。
じきに小倉池を過ぎ、常寂光寺の前に出る。

この寺の裏山が小倉山。なんとか写真に撮ろうとするが、あまりに近すぎ。

定家の別荘跡だということだし、寺内には定家の木像もあるということだが、木像に挨拶するのもなんだかなあと思い、定家の編集精神とでもいうものを考えるのに、この土地の雰囲気を感じれば充分だし、写真撮るのにお寺が邪魔だし、入らずに落柿舎に行く。

落柿舎入場料150円。払うのが惜しいのではないが、入らない。

小倉山麓のもつ雰囲気が、私をそのような天の邪鬼にさせたにちがいない。

去来の墓がすぐ近くにあり、詣でる。
小さな、片手で持ち上げられそうな自然石に「去来」と彫ってあるばかり。
墓地の側に「西行井戸」というのもある。

戻りしなに見ると、芭蕉(バナナ)が植わっていて、そこから落柿舎の側面が見える。
だれかが気を利かして植えたのか、俳諧らしいシャレが効いている。

常寂光寺前の道を南に数十歩あるいて振り返ると、小倉山がよく見える。
渡月橋あたりは観光客でごった返していたが、このあたりは静か。
定家がこのあたりに山荘を構え百人一首を編纂し、去来が閑居を構えたことを考えさせる。



常寂光寺寺門



芭蕉の葉越しに落柿舎をのぞく

小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびの行幸待たなむ   貞信公

植物と言葉を交わすことはできるのだろうか。

植物と心を交わすと思うのは、人間の勘違いなのだろうか。

私は、それは勘違いであると断言するのだが、そのように感じるときがあることを否定しない。

それは、人の心が、相手の差異に関係なく呼びかけるのである。

そしてその感応が、「待たなむ」という願望の根拠となる。

人間と植物の交感が、人と人との言葉を介さない交わりの根拠となる。


再び竹藪の道を歩き、野宮神社に。小さく可愛らしい雰囲気を持つ神社。

1時間半ばかり嵯峨野、嵐山にいた。


野宮神社

再び京都縦貫自動車道で亀岡ICを経て、13:50ころ、「道の駅 いながわ」に。

行って帰ってまた行って、何してんだか。

道の駅のすぐ裏に流れる小さな川が、猪名川。
何でもない田舎の川。豊中あたりで神崎川に注ぎ込む。
兵庫県川辺郡猪名川町は、団地もあり、大阪の衛星都市となっているようだ。

道の駅には「そばの館」という食堂があるが、蕎麦はさっき食べたばかり。
有馬山へ向かう。カーナビが意地悪な道を指示するなか、
14:50有馬瑞宝寺公園に。

「エッフェル塔を見たくなければ、エッフェル塔へ行け」と言うらしいが、有馬温泉街に行けば、有馬山はそれとは見えない。
急な斜面に多くの旅宿が建ち並び、客も多く、運転には難渋したが、20分ほどで引き返し、7号北神戸線で次の目的地に向かう。





猪名川の流れ


有馬山山中で有馬山を撮る

マップへ戻る
有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする   大弐三位

自然の発する言葉を聞く。貞信公の歌と同趣と解すればどうだろう。

風にそよぐ草の葉音に、自分の中に秘せられた思いを聞く。

自分から自然へ語りかけたわけではないのだが、自然が自分の耳へとささやきかける。

そのささやきが、自分の心の奥底に隠した思いに気づかせる。

有馬山から猪名へかけての隠されたような緑の広がりが、それまで気づかなかった自分の心の奥の広がりの中の、かすかな、しかし確かなざわめきとして感じられる。


ついでにと言えばなんだが、2月の旅のときに閉店だった「いなみうどん」へ立ち寄ることにする。

16:00過ぎ、そういえば今日は月曜だよなあ、この前も月曜・・・、さらに中途半端な時間だし・・・と思いつつ、無事営業中。

入ってすぐのカウンターの入ってすぐの席に座らせられ、「ころうどん」をたのむ。早くに出てくる。
うどんは手打ちのしこしこしゃきしゃき、コシがある。海苔と天かす、玉子の黄身。ダシに工夫があるらしいが、ちょっと辛め。うどんの噛み心地とのど越しが美味い。
「ころうどん」には、カツ飯に通じるグルメ感があるような気がする。
うどん屋としては上級だと思う。カウンター席の奥にも席があるようで、駐車場が多量に用意されている。私が食べ終わって出てからも、何人も訪れていた。
来店してから10分程度で、食了。最後の目的地、高砂神社へ向かう。

途中工事で道を迷ったりしたが、16:50ころ「ブライダル都市 高砂」の高砂神社に到着。

思ったより広い境内に能舞台があるあたりは加古川の泊神社と同じで、土地柄を感じさせる。
前代の松を収める社も造られたりして、本殿の奥に植わっている松は五代目だそう。




マップへ戻る
誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに   藤原興風

人間にあらざるものとの交感は、人間どうしの交感と同じく、最後はすれ違いの断絶感へと帰着する。

「か」という疑問の係助詞が「も」という強調の係助詞で増幅され、「む」という意志・推量の助動詞、「なし」という形容詞が名詞化され、「に」と逆接の助詞で終結する。
そしてそれらの付属語の前の音、「せ」「なら」という不安定な響き。

絶望の中に立ち続ける伝説の松の緑とひび割れた幹が、「ならなくに」と言いながらも、孤独を共有する共感を生じている。

そして高砂より向こうは、茫漠たる霞のかなたにつづく世界である。

定家の信じた幽玄とは、言葉から発せられた現実の向こうに広がる世界であろう。

明石散人は「幽玄」とはものごとの始まりであると断じた。

ものごとの始めであるから、その先に無限の広がりがある。

そしてそれは、始まってしまえば有限になってしまう脆い一線の上に成り立っている。

定家は、小倉山のふもとで歌と向き合い、自らを異世界へと連れて行く言葉の瞬間と出会っていたのではないか。

言葉は、文字や音声にされると定着されてしまったように思われるのだが、生命を失うことはない。
砂漠の河床に眠る魚がはるか上流から流れてくる雪どけ水によって目覚めるように、いつまでもその命を隠し持ち、私たちが何千里のかなたの雪をわずかでも溶かすのを待ち続けている。


高砂まで来ると、平安人にとっては肉眼の範囲内にはなく、高砂の松は想像上の存在とも言えるだろうか。

これから帰ろうとしている広島は、さらに260キロメートルの彼方。高速道でも3時間半はかかる。どのような「鬼」がいるのだろうかと、不安が芽生える。

京文化、というより平安文化の厚みと重量感が、私を支配しているようだ。

途中故障車による渋滞もありながら20:50帰着し、入浴の後、酒を飲みつつこれを記している今も、その不安定な感じが心の重心に、ある。不思議なことだ。

「都」から離れれば離れるほど、何がいるかわからない。それこそ「鬼」がいても不思議ではない。
そんな感じが、いまだに私を支配している。


走行距離;494Km
今日のBGM;French Corazon / Brigitte Fontaine
        delicious way / 倉木麻衣
        un / ともさかりえ

今日のリンク

綾部市
京都五山送り火ウォーク
日本市民スポーツ連盟認定大会「第12回京都五山送り火ウォーク」(pdfファイル)
常寂光寺
弘源寺
野宮神社
嵐山・嵯峨野散策ガイド
嵐山商店街
猪名川町
いなみうどん
高砂市
高砂神社

前の日へ  INDEXへ